「アベノミクス異次元緩和・円安」ヤリ玉の“トランプ砲”、市場をかく乱=日米首脳会談の「取引」材料に―政府・日銀苦慮

八牧浩行    2017年2月2日(木) 10時20分

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トランプ米大統領が「他国は通貨安誘導に依存している。何年も行ってきた」と日中の為替政策を批判。アベノミクスの根幹である「異次元緩和⇒円安」がやり玉に挙げられた格好で、日本政府・日銀は対応に苦慮している。写真はトランプ大統領就任式。

2017年2月1日、トランプ米大統領がホワイトハウスでの会談で「他国は通貨安誘導に依存している。日本は何年も行ってきた」と語り、日中の為替政策を批判。政府・日銀は「円安誘導策は取っていない」と反論したが、アベノミクスの根幹である「異次元緩和・円安」がやり玉に挙げられた格好。日本政府・日銀は2月10日に開催される日米首脳会談に向けて、対応に苦慮している。

トランプ氏は31日の会談で、「他国は通貨安を享受し、米国がばかを見ている」「他国は通貨安や通貨供給量で有利な立場を取っている」と批判。日銀などが量的金融緩和を実施し、市場に大量の資金を供給していることに疑問を投げかけた。この発言を受けて、外国為替市場で円が急伸した。

貿易政策に続いて為替政策でも日本を名指しで非難したことで、日本の政府・日銀は警戒感を露わにしている。10日の日米首脳会談の新たな課題が浮上した格好。トランプ大統領が日銀による量的金融緩和策をヤリ玉に挙げているのは明白だ。

日本の金融当局は、「近年、大規模な市場での円売り介入などは行っておらず、為替操作はしていない」との立場だが、アベノミクスの中核をなす「量的緩和」が円安・ドル高誘導と見なされたことになる。

トランプ大統領のこの発言について、菅義偉官房長官は1日の記者会見で、「全く当たらない。金融緩和は国内の物価安定目標のためで、円安誘導を目的としたものではない」と反論したが、「異次元緩和・円安株高」はアベノミクスの「1丁目1番地」(シンクタンク首脳)であり、韓国などから「近隣窮乏策である通貨安競争を仕掛けた」と批判されてきただけに、苦しい抗弁といえる。

元来アベノミクスは異次元の金融緩和、円安、企業向け減税、規制緩和、公共投資などで企業収益や設備投資の拡大を図り、その成果が家計にトリクルダウンする(したたり落ちる)ことで、消費の回復につなげるのが狙いだった。

アベノミクスの理論的な支柱である浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は5年前に、日本のエコノミストの会で「日本経済低迷の元凶は円高である」と強調。円高ドル安の是正に総力を挙げて取り組むべきだと提言していた。実際、安倍晋三首相や黒田東彦日銀総裁は浜田氏の進言を受けて、アベノミクス「異次元緩和⇒円安」の流れを誘導。黒田総裁は2013年3月21日の就任記者会見で、2%の物価上昇率目標の達成へ「量的、質的両面から大胆な金融緩和を進める」と表明した。実際、第2次安倍政権が発足した2012年12月に1ドル=80円台だった円相場は、相次ぐ金融緩和策により2015年7月には120円台に急騰した。

異次元緩和による円安・株高はアベノミクスの根幹であり、円安・株高マーケットの流れが反転するたびに対応策を講じてきた。昨年2月のマイナス金利導入はその極め付きと言える。浜田氏は昨年9月、円高を抑える切り札として「日銀が外債を買うことも選択肢」と発言していた。

オバマ政権時代の14年1月、ルー米財務長官は日本について「為替に過度に依存すれば長期的な成長はない」とした上で、日本の為替政策を「注視し続ける」と述べ、「円安誘導」を牽制し、波紋を投げかけた。

昨年6月、財政制度審議会(財務相の諮問機関)の吉川洋会長は「黒田総裁らはマネーの流通量を増やせばデフレが止まると主張したが、その異次元金融緩和が行き詰まった。マイナス金利を導入したが効果はない」と批判。「購買力平価(ビッグマック指数など通貨の実際の購買力)でみると、適正円相場は1ドル=80円であり、ルー米財務長官の円安牽制発言は妥当と言える」との見解を示した。

円ドル問題も、10日の日米首脳会談でトランプ氏から提起されると見られ、市場関係者ははその行方を注視。安倍首相の対応が注目される。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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