<躍動!アジアの世紀(4)>最大リスクは軍事衝突、回避できるか?=中国世論、6割超が日中衝突「起こる」と予想

八牧浩行    2017年1月4日(水) 14時0分

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発展めざましいアジア地域で「アジアの世紀」を実現する上で、重要なのはリスクを未然に取り除くことだ。その最大の必要条件は「平和と安定」の維持。日中韓などアジア諸国の経済相互依存関係をさらに深め、「繁栄」に繋げることが不可避である。写真は羽田空港。

発展めざましいアジア地域で「アジアの世紀」を実現する上で、重要なのはリスクを未然に取り除くことだ。その最大の必要条件は「平和と安定」の維持。日中韓などアジア諸国の経済相互依存関係をさらに深め、「繁栄」に繋げることが不可避である。

◆アジア諸国、軍事費を増強

米誌フォーブスがまとめた世界各国の軍事力ランキング(2016年)によると、米露に続き中国が世界3位、日本が4位、韓国が6位、マレーシアが8位、ベトナムが9位と、アジアには強力な軍事力を持つ国が多い。その多くは中国への対抗から軍事力の強化を進めており、専門家は「中国こそアジアの軍事力近代化及び戦力拡張の最大の要因だ」と見ている。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、2015年の世界の軍事費が前年比1%増の1兆6760億ドル(約186兆円)に達した。1位の米国は前年比2.4%減の5960億ドルで、世界の軍事費の36%を占めた。2位は中国の2150億ドルで7.4%の増加。前年4位だったサウジアラビアが3位に上昇し5.7%増の872億ドル、3位だったロシアが4位で7.5%増の664億ドル。ロシアが順位を下げたのは主にルーブル安の影響という。9位だった日本は8位に浮上。17年度予算案でも前年度に続き5兆円を突破した。

東シナ海や南シナ海での中国の海洋進出について、中国には独自の言い分があるが、国際法上容認し難く、中国の自制がまず求められる。習近平政権の有力ブレーンとされる金燦榮・中国人民大学国際関係学院副院長は、昨年10月に来日した際、中国外交の基本戦略として(1)米、露、EU、日本など大国と安定した関係を維持する(2)周辺国との外交の重視(3)開発途上国への援助拡大(4)国連PKOなど国連プラットフォームやグローバルガバナンスを活用(5)世界に500ある孔子学院の活用などによるソフトパワーを増強―などを列挙。特に米国と新型の外交関係を構築する方針を強調した。この方針を順守すべきである。

金氏はさらに、米中のグローバルガバナンスには相違があると指摘。中国のスタンスは(1)国連中心(米国は同盟国中心)(2)開発・提供を優先(米国は安全保障)(3)各国平等の立場でグローバルネットワークのづくりを目指す(米国は“等級”分けされており、英語圏、アングロサクソン中心)(4)内政不干渉(米国は人権問題などに干渉)―などに特色があると説明した。 中国は世界第2位の経済大国となった今、世界各国との協調を優先する必要があろう。

トランプ米次期大統領が引き起こしかねない地政学的なリスクも無視できない。トランプ氏の対アジア政策が地政学リスクの連鎖を引き起こす懸念がある。米中間の通商・為替摩擦、南シナ海の南沙諸島と台湾海峡問題の行方も波乱要因となる。米トランプ次期政権が台湾を対中交渉材料に使えば、中国側は太平洋進出の口実に緊張関係を用いるかもしれない。さらに韓国の政治・経済が動揺する中で、中国にとって北朝鮮は有力な対米交渉の道具となる。こうした中で、トランプ氏が既に指名した閣僚や補佐官などにアジアに精通した人材がほとんどおらず、「アジアへの関心が薄い」(米外交筋)のも気懸りな点だ。

南シナ海問題ではフィリピンは対中接近に動き、軍事政権のタイも中国に傾く。米国のアジア関与が弱まれば、この流れがさらに加速し、アジアは親米圏と親中圏に分裂する恐れもある。

◆国交正常化45周年の節目を生かせ

日中両国は尖閣諸島の領有をめぐり緊張関係にあるが、アジアの繁栄のためには、軍事衝突しないことが至上命題となる。言論NPO工藤泰志代表)と中国国際出版集団(周明偉総裁)が共同で実施した第12回「日中共同世論調査」(16年9月発表)によると、領土をめぐる日中間の軍事紛争について「起こると思う」と考える人は、日本側が28・4%だったのに対し、中国側は62・6%と、3人に2人に達した。中国で6割を超えたのは調査開始以来初。数年前から両国ともに国民感情は改善傾向にあったが、この流れが反転した。

軍事衝突が起きれば中国発展のシナリオが崩れる一方、アベノミクスにも大きな打撃となり日本経済の再生も行き詰まる。中国には日本の企業が2万社あり、21万人もの日本人が暮らしている。一方、日本に在住する中国人は100万近くに上り、訪日中国人観光客は16年に約600万人に達する。

尖閣諸島めぐる問題については、1972年の国交正常化以来、事実上「棚上げ」されてきたことを再確認し、実力・武力で問題の解決を図ることを避ける。日本と中国は偶発的な軍事衝突を避けるためのホットラインや危機管理メカニズムを早期に設定する。その上で、尖閣諸島周辺の海域・漁場を含む東シナ海全体を「平和・友好・協力の海」として共同管理していくことも視野に入れるべきだろう。

今年は日中国交正常化45周年という節目の年。トップ同士や庶民レベルの交流を広げていく必要がある。互いに協力しやすい経済、環境、文化面での協力を積み重ね、領土や歴史問題があっても揺るがない関係を構築すべきである。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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