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「尖閣紛争」解決の決め手は、中国東北地方活性化とAIIB加入!=日韓両国で新シルクロード構想支援を―瀬口研究主幹が大胆提言

八牧浩行    2016年12月9日(金) 5時20分

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8日、瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は東京都内で講演し、日中韓3国間の関係強化策として、日韓両国が中国の新シルクロード(一帯一路)構想を支援することを提案した。写真はハルビン。

2016年12月8日、中国経済事情に詳しい瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹はこのほど東京都内で講演し、日中韓3国間の関係強化策として、日韓両国が中国の新シルクロード(一帯一路)構想を支援することを提案した。その重要施策として、日本がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加入するか実質的に支援することが重要なカギとなると指摘。これが実現すれば、「中国側の東シナ海における日本に対する姿勢が大きく変化する可能性が高い」と強調した。発言要旨は次の通り。

習近平政権は新シルクロード構想を対外政策の最重要施策と位置づけ、その具体化を高度に重視している。しかし、陸路のルート(一帯)は中央アジア地域でのテロリスクの大きさから経済的に採算が合わない。一方で、海上ルート(一路)についても、現状では南シナ海・東シナ海問題で紛争が起きているため、活用が難しい。日韓両国が新シルクロード構想を支援することになれば、これを推進するために中国としても尖閣諸島周辺海域における行動を融和的な方向に変える可能性が高いと米中の専門家は見ている。習近平政権は「海のシルクロード」を開通させるために東シナ海の緊張状態を改善するだろう。

◆遼寧省、吉林省、黒竜江省の経済再生に日韓の協力を!

新シルクロード構想支援の具体策として、AIIBへの加入または協力のほかに、長期停滞が続く中国東北地域経済(遼寧省、吉林省、黒竜江省)の経済再生に日中両国で取り組むことを提案したい。

最近の中国経済全体を見渡すと、東部沿海部、中部、西部各地域はそれぞれ主要都市がリードし、消費も投資も安定を保持している。それに対して、東北地域は産業構造が過剰設備に苦しむ重工業に偏り、非効率な国有企業が多く経済状態は劣悪だ。中国政府はこの地域の経済再生に対してこれまで様々な対策を講じいるが、依然として深刻な経済停滞が続いている。

そこで日中両国の協力で東北地域をアジア太平洋地域の健康モデル基地への変革と経済活性化実現へ、次の3点を提言する。

(1)東北地域製造のハイブリッド車を環境保護車に指定する

中国の大気汚染は一向に改善せず、一般庶民は環境問題に対する政府の甘い姿勢に強い不満を抱いている。中国政府は都市部における環境対策として電気自動車の普及を目指しているが、順調に普及したとしてもその比率は当面20%程度にとどまると見込み。残りの80%は引き続きガソリン車であるため、主要都市の大気汚染改善には不十分だ。

現在は環境保護車の指定対象となっていないハイブリッド車を環境保護車に指定すれば、ガソリン車の排ガスを大幅に削減することができる。環境改善に有効であることは明らかである。そこで、日中両国の環境協力プロジェクトとして、中国の東北地域で生産することを前提にハイブリッド車を環境保護車に指定することにすれば、環境問題と東北経済問題の両方を同時に改善に向かわせることが可能となる。

2015年の中国国内市場での自動車販売台数は約2500万台に上り、仮にその4%がハイブリッド車になれば、100万台となる。東北地域で毎年100万台の自動車が生産されるようになれば、日本の自動車関連の部品メーカー、素材メーカーなども東北地域に進出し、数十万人の新規雇用を生み出す。加えて、東北地域は大気汚染が最も深刻な華北地域に近く、北京、天津といった大消費地への輸送にも比較的便利であるという地理的メリットもある。

(2)長春市を核とする食品安全プロジェクトの推進

中国の一般庶民の悩みは食品安全問題。今年から国連と中国政府の共同プロジェクトとして、中国全土で一般庶民が安心して食品を食べられるようにする食品安全プロジェクトが始まった。土壌汚染の心配が少ない東北地域の吉林省長春市が中核拠点に指定された。農業生産、食品加工、物流、販売の全行程を標準化し、食品安全基準を満たす業者のみに参画させ、その全過程を可視化する。

国連は、このプロジェクトが中国で成功すれば、その手法を生かして、全世界の発展途上国の食品安全問題の改善に活用したいと考え。その中核を日本企業が担うことが期待されている。日本の一流企業が中国企業と提携することによって、日本のブランド力で中国の一般庶民に安心してもらえるシステムを構築しようとしている。すでに日本の一流企業十数社が関心を示し、来年以降その動きが本格化する見通しだ。土地改良、水質改善、肥料、農業生産、植物工場、食品加工、物流、倉庫、包装・パッケージ、食品販売、飲料販売、飲食サービスなど広範な分野での日中協力が期待される。

このプロジェクトが軌道に乗れば、東北地域が中国、アジア太平洋地域、そして全世界の健康モデル基地となり、日本企業の東北地域での投資拡大が見込める。

(3)東北地域の環境基準を日本並みに引き上げる

東北地域の空気や水の環境が良好でなければ、だれも安心して食品を食べることはできない。東北地域の環境基準を中国の他地域に比べて厳しくすることが必要である。例えば2020年までに日本の環境基準を満たすことを義務化すれば、東北地域の全工場は最先端の排煙処理設備を備え、東北で走る自動車は日本の排ガス規制をクリアできるようにすることが必要になる。そうなれば、多くの環境関連需要が生まれ、環境関連産業の日本企業が東北地域に進出し、東北で走る車の多くはハイブリッド車になる。

以上の3つの施策を実施すれば、東北地域は経済が大幅に活性化し、日本並みの環境保護の行き届いた健康モデル基地に生まれ変わることができる。 日中協力プロジェクトとして以上のような成果を実現することができれば、それにより日中間の信頼の絆も深まる。日中両国の協力プロジェクトとして新シルクロード構想支援を通じた日中ウィンウィン関係の構築が実現することを期待したい。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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